神は沈黙せず〈下〉 (文庫)

snmocha2006-12-02

神は沈黙せず〈下〉 (文庫)
山本 弘 (著)

出版社/著者からの内容紹介
超常現象は「神」からのメッセージだった!? 長編エンタテインメント登場!
遺伝的アルゴリズムを研究するうち、「神」の意図に理論的に到達してしまった人工生命進化の研究者・和久良輔。「サールの悪魔」という言葉を残し失踪した良輔を追う妹・優歌、彼女がたどり着いた「神」の正体とは!?

内容(「BOOK」データベースより)
「サールの悪魔」この謎めいた言葉を残し、優歌の兄・良輔が失踪した。彼はコンピュータ上で人工生命進化を研究するうち、「神」の実在に理論的に到達。さらにその意図に気づき、恐怖に駆られたのだ。折しも世界各地では、もはや科学では説明できない現象が頻発。良輔の行方を追ううち、優歌もまた「神」の正体に戦慄する―。膨大な量の超常現象を子細に検討、科学的・合理的に存在しうる「神」の姿を描き出した本格長編SF小説

はてな年間100冊読書クラブ 184




SFはほとんど読まないのですが,友人に勧められて「神は沈黙せず」山本 弘 (著)を読了しました.これだけ一気に読み通した小説は久しぶりです.神は存在するのか?という誰もが抱く疑問がネタになっています.
著者はトンデモ学会の会長さんだけあって,超常現象についてのウンチクというか情報が多すぎるのが一つの難点です.超常現象に関する世情のパロディとして書いたのかなと最初思ったくらいです.でもストーリーはSFとして面白くて読ませてくれます.昔からよくあるパターンのお話です.神は存在するか?いたとしてどのような神なのか?この世は実は誰かさんの夢,実験,コンピューターで作られたもので,実態はなにもないのではないか?という話です.散々この手の話は作られているわけで,リング三部作のラストの「らせん」なんかそのままですし,映画でいうと「マトリックス」なんかもそのひとつでしょう.
宗教は科学的に考えても仕方のないところがあるわけですから,このような世界観もありなんでしょう.死んだ後どうなるかを科学的に考えるよりは,神が実在して天国があるという前提で物事を考えて行動したほうが,たいていの人は正しく生きれるし,コミュニティーは正常に機能しやすのではないかとは思うのですが.
よくあるニューエイジ本はイエスが人間だったとか,そういった類の論証に力を入れて神という上位概念を否定することに躍起になっているようです.そんな中で「ダビンチコード」みたいに大流行する小説もあるわけですが,そんな論点はどうでもよいわけです.そういうことを知らされてもちっとも元気にならないし,虚無感が漂ってくるだけです.虚無感が一番だめなんですよ.何をやってもだめだってことになるから.自分たちより上位の概念を受け入れた上で,現状のコミュニティをましなものにしていくことが大事なのではないでしょうか.
そういう点では,この小説には前向きな登場人物が出現します.この世がシュミレーションなのであれば,特異的な目立つ行動をとって,セーブしてもらおうと考える男がでてきます.コンピューターゲームの敵役としては有能な奴です.それに比べると主人公である兄妹は,生き方が中途半端に見えます.状況を把握しようとするだけで,その状況の中でどう生きようとしているのかさっぱりわからない.もちろんそういう傍観者的な役回りを著者によって与えられているわけですから,そういう意味でも彼らはシミュレーション世界から逃れることができなかったわけです.「科学的・合理的に存在しうる神の姿を描き出した本格長編SF小説」と,帯文にはありますが,まさにそのような姿の神を描いた著者のこそが神であり,うんちくと万能の筆力を駆使して読者をそのシミュレーションの中に引き込んでくれるわけです.