陪審法廷


陪審法廷
  • 著:楡 周平
  • 出版社:講談社
  • 定価:1785円
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日本でも近々はじまると言われている市民参加型裁判.アメリカではその昔から陪審員制度があるわけです.そこでアメリカの陪審員裁判を引き合いに出して,裁判制度の問題点をさらそうという試みを小説で行ったのが本書です.従ってサスペンスや推理の楽しみはありません.小説としての文章力もいまひとつかな,淡々として淡泊すぎ.被告はアメリカに住む日本人の少年です.隣人の少女が養父から性的暴行を受けているのを知り,銃を持って殺害を企てます.この辺までは本書の主題ではなく,しかし,小説なんだからもう少し何とかならないのかといいたくなる退屈なストーリーなのですが.裁判は陪審員制.この選ばれた陪審員のなかに日本人女性(国籍は米国)がいます.背景が日本人であり,有罪無罪を白黒はっきりつけるだけというアメリカ式の裁判に違和感を覚えます.情状酌量という概念はないのだろうか?と.

裁判の結果は書きませんが,少々違和感が.「情け」ということばをキーワードとしてこの女性が他の陪審員に自説を述べていくのですが,これ,英語になるのか?というところです.「情状酌量」というのは辞書で引くと「extenuating circumstances 酌量すべき情状」というのがでてくるのですが,あくまで状況を考慮にいれてということで,日本語の「情け」というニュアンスとは違うようで.アメリカの状況,問題点を引っ張ってきて日本の新制度の問題点を探ろうという試みでしょうが(別に著者がそう明言しているわけではないですが),読んでいてしっくりこなかったのは,日本的な感覚をもってアメリカの裁判制度を批判しているだけのように感じる点でしょうか.