B型肝炎に対する核酸製剤療法

B型肝炎に対する核酸製剤療法

1. ラミブジン
1.1. 作用機序
• シチジンのアナログ.
• 肝細胞内で三リン酸誘導体にリン酸化されて活性型(dCTPに類似)になる.
• ①RNA依存性DNA polymerase(逆転写酵素)阻害,②DNA依存性DNApolymerase阻害,③ウィルスDNAに取り込まれChain terminatorとして作用することで,HBV DNAの合成を阻害する.

1.2. 使用方法
• 年齢(35歳),ウィルス量(7log copies/ml),HBeAgの有無により方針を決定する.
① 35歳未満でHBeAg陽性の場合は,IFN長期投与を主体とする.ラミブジン投与は短期投与を主体とする.
② 35歳未満でHBeAg陰性の場合は,経過観察.
③ 35歳以上の場合は,ALTが異常値であればラミブジン投与.

1.3. 問題点
• ラミブジン投与中止によりウィルスの再増殖,肝炎再燃が高率.
• 長期投与に伴いラミブジン耐性ウィルスおよびbreakthrough bepatitisが高率で出現する.
• 耐性は,HBV polymeraseの活性中心であるYMDD motif (Tyr-Met-Asp-Asp) のM(メチオニン)がI(イソロイシン)またはV(バリン)へ変異することで耐性となり,このYIDDあるいはYVDDウィルスが増殖してくる現象.
 
1.4. ラミブジン耐性ウィルスに対する治療
インターフェロン(IFN),核酸製剤(アデホビル,エンテカビル)による治療.

2. アデホビル
2.1. 作用機序
• アデニンのアナログである.プロドラッグであるアデホビルジピボキシルがesteraseによりアデホビルとなる.
• アデホビルが肝細胞内で二リン酸誘導体になり,dATPに類似した活性型となり抗ウィルス作用を示す.

2.2. ラミブジン耐性ウィルスに対するアデホビルによる治療効果
• アデホビル投与開始後ウィルス量の減少と肝炎の沈静化には数週間必要.
• ラミブジン耐性ウィルスに対するアデホビル併用療法の成績は,HBV-DNA陰性化(300 copies/ml未満)率が6ヶ月59%,12ヶ月69%,18ヶ月89%,またALT正常化率は6ヶ月80%,12ヶ月90%,18ヶ月95%であった.

2.3. アデホビル耐性ウィルス
核酸製剤未治療患者に対するアデホビル単独療法における耐性ウィルス出現率(海外例)は1年0%,2年3%,3年5.9%とラミブジン耐性ウィルスに比べて低率.
• アデホビル耐性に関与するアミノ酸変異は,rtA181V/T,rtN236T.
• ラミブジン耐性ウィルスに対してアデホビル単独投与とラミブジン,アデホビル併用投与を比較(海外)すると,治療効果は同等であったが,アデホビル単独投与切り替え症例において1年で18%のアデホビル耐性ウィルスが出現した.
• ラミブジン,アデホビル併用投与での耐性ウィルスの出現報告は少ない.
• ラミブジンとアデホビル両剤の耐性遺伝子(L180M+M204V+N236T)を作成し,その増殖能が低いことから,両剤併用時の耐性出現には時間がかかり,たとえ出現してもエンテカビルなどの新しい抗ウィルス剤の効果があることが示されている.

 
3. エンテカビル
3.1. 作用機序
• グアニンのアナログ.肝細胞内で三リン酸誘導体にリン酸化され,dGTPに類似した活性型になる.

3.2. 治療効果
核酸製剤未治療患者への48週投与後,HBV-DNA陰性化率はエンテカビル0.5mg/day投与群67%,ラミブジン100mg/day投与群36%.
• ラミブジン耐性ウィルス出現患者への投与ではエンテカビルはラミブジン耐性ウィルスに対して有効であった.

3.3. エンテカビル耐性ウィルス
• 野生株HBVに対するエンテカビル治療において耐性ウィルス出現の報告はない.
• ラミブジン耐性ウィルスに対するエンテカビル治療においてエンテカビル耐性ウィルスの出現が報告されている.
• ラミブジン耐性ウィルス(YMDD変異)にさらにアミノ酸変異(rtT184G, rtS2021, rtM250Vいずれか)が加わることでラミブジンとエンテカビルの二重耐性になることが報告されている.

4. その他開発中の新規製剤
• Tenofovirは野生株HBVに対してラミブジンより抗ウィルス効果があり,ラミブジン耐性ウィルスに対してアデホビルよりも有効.
• MCC478 (LY582563) はアデホビルから合成されたアデニンのアナログであり,in vitroにおいてラミブジン耐性ウィルスに対しアデホビルよりも有効.(三菱ウェルファーマのパイプラインには掲載されていない.なぜ?)
• Emtricitabineはラミブジンより強力な抗ウィルス作用をもつが,ラミブジン耐性ウィルスには無効.
• ClevudineはEBウィルスに抗ウィルス効果のある核酸製剤.
• LdT, Penciclovirはいずれもラミブジン耐性ウィルスに無効.