経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか

snmocha2006-10-30

経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか (単行本)
C.ダグラス ラミス (著), C.Douglas Lummis (原著)

単行本: 230ページ
出版社: 平凡社 (2000/09)
ASIN: 4582702279

Amazon.co.jp
海兵隊員として沖縄に駐留した経験を持ち、1980年から20年間にわたり津田塾大学の教授を務めた著者。その後は沖縄を拠点に執筆や講演を中心に活躍し、『憲法と戦争』などの著書がある。語り下ろしである本書は、タイトルどおりのテーマを「発展」「現実的」といった当たり前に使われる言葉とともに考え直していく過程が興味深い。
第1章で語られる「タイタニック現実主義」というたとえが、著者の現状に対する憂いをよく表している。もし、エンジンを止めたら仕事が無くなるから非現実的だとして、目の前の氷山に突き進むタイタニック号があったとしたらどうだろうか。環境問題、南北問題がなかなか改善されないこと、しかし実際には多くの人々がその原因には気付いていることを考えると、この世はまさにタイタニック号であるのかもしれない。第4章の「ゼロ成長を歓迎する」では、ゼロ成長を「エンジンの故障」ではなく機会ととらえ、経済以外の価値を発展させていく「対抗発展」が説かれる。

たとえば平和を口にする人間が理想主義者として嘲笑される。著者の憂慮するそんな傾向は確かにあるようだ。しかしそこで一歩進んで、現実的に考えよと説く人々にとっての「現実」を分析してみると、必ずしも大多数の人間にとっての幸福にはつながらない、つまり現実的ではない点も多いことがわかる。本書のターゲットは、主に漠然とした危機感を抱いている人々であるというが、むしろ自分は現実主義者であると自負する人こそ、本書に目を通してみるべきかも知れない。そこに生まれる論議こそ、実りあるものではないだろうか。(工藤 渉)

出版社/著者からの内容紹介
憲法9条を理想主義的だと批判する人々が根拠とする「現実」がどのように形成されてきたのか。真の 「現実主義」 とはどうあるべきかを、気鋭の政治学者が熱く語る。